本日も稲刈りの話題で失礼いたします。
ちょうどこれからの時期は稲刈りのシーズンにあたり、晴れた日であれば各地で黄金色に輝く穂を刈り取っている光景が見られるかもしれません。私の実家では、稲刈りをした直後に乾燥機を使って籾(もみ)を乾かしてしまうのですが、地域によっては「はざ掛け」と呼ばれる作業を行うことがあります。
最近ではあまり見かけなくなったはざ掛けですが、実は乾燥機を使うよりもはざ掛けを行った方が米は美味しくなると言われています。籾を乾燥させる点はどちらも共通しているにも関わらず、はざ掛けの米が美味しくなるのは一体なぜなのでしょうか?
はざ掛けとは?
はざ掛け(稲架掛け)とは、木や竹で組み上げた稲架(はざ)に収穫した稲を逆さに吊るし、天日干しする作業のことを指します。地域によってははぜ掛け、はで掛け、はさ掛けなどと呼ぶこともあります。(天候などの条件にもよりますが)はざ掛けの期間は通常2〜3週間程度で、十分に乾燥したら脱穀機を使って籾を取り出します。
ここで、はざ掛けを行う場合も乾燥機を用いる場合で稲刈り後の工程を比較してみました。はざ掛けの場合は乾燥させてから脱穀、乾燥機を用いる場合は脱穀してから乾燥させる点が大きく異なります。なお、はざ掛けの方が手間と時間を要するため、高級品として扱われる傾向があります。
◎はざ掛けを行う場合
・稲刈り→はざ掛け(2〜3週間程度)→脱穀→籾すり→玄米
◎乾燥機を用いる場合(※私の実家の場合)
・稲刈り・脱穀→乾燥機(1〜2日程度)→籾すり→玄米
収穫した稲・籾を乾燥させるのはなぜ?
古米(収穫から1年以上経過した米)や古古米(収穫から2年以上経過した米)という表現が一般的に使用されている通り、米は長期保存される機会の多い作物です。ところが、稲刈り直後の籾は水分量が多いため傷みやすく、長期保存には向かないのだそうです。そこで、収穫した稲や籾を乾燥させることで水分量を減らし、(精米後の)米の長期保存を可能にしています。収穫直後の籾は水分量が20〜30%と言われていますが、これをはざ掛けや乾燥機によって15%程度まで減らします。但し、むやみに乾燥させれば良いというものでもなく、水分量が15%を切ると今度は品質や味が落ちてしまいます。
はざ掛けを行った米の方が美味しい!?
籾を乾燥させて水分量を落とす点ははざ掛けも乾燥機も同じですが、肝心の味ははざ掛けした方が美味しいと言われています。はざ掛けと乾燥機では主に以下の2点が異なりますが、これらが美味しさに関係しているのでしょうか?
・脱穀前の乾燥か、脱穀後の乾燥か
・ゆっくり乾燥か、手早く乾燥か
ここでは、この2点についてもう少し掘り下げてみることにします。
①脱穀前の乾燥か、脱穀後の乾燥か
・はざ掛けでは脱穀前に籾を乾燥させるのに対し、乾燥機では脱穀後に籾を乾燥させます。はざ掛けでは稲穂の状態で逆さに吊るすため、葉や茎に残った旨味が下へと移動し、籾に凝縮されます。また、日光に長く当てることでアミノ酸が新たに生成され、さらに旨味が増すとも言われています。
②ゆっくり乾燥か、手早く乾燥か
・はざ掛けでは籾の乾燥に2〜3週間程度要するのに対し、乾燥機ではわずか1〜2日程度で完了します。はざ掛けは長い期間を要する分、ゆっくりと乾燥させるため籾(米)の味や品質が落ちにくいと言われています。やはり手間暇をかけた分、美味しくなるということなのでしょうか。
①②だけを見るとはざ掛けのメリットばかりな気がしてしまいますが、実際にはざ掛けを行おうとすると多大な手間と時間がかかります。そのため、近年でははざ掛けを見かける機会がめっきり少なくなり、乾燥機による乾燥が主流になりつつあるようです。乾燥機は温度や湿度の管理がしやすく、一度に大量の籾を乾燥させられる点もメリットと言えます。