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【屋久島】屋久杉の寿命が長いのはなぜ? - アタマの中は花畑
前回の記事にて、寿命が長い植物として屋久杉を取り上げました。屋久杉の中でも最も長寿だとされるのは「縄文杉」と呼ばれる個体で、科学的な計測の結果、その樹齢は2,170年以上であることが判明しています。

縄文杉の時点で既に相当な樹齢ですが…地球上には、さらに古い歴史を持つ植物がまだまだ存在すると言われています。ということで、今回は調査対象を屋久島からさらに広げ、「地球上で最も古い植物」について調べてみたいと思います。
「非クローン個体」として最も古い植物
まずは「非クローン個体」として特に古い植物と言われるものをいくつか取り上げたいと思います。なお非クローン個体とは、1本の幹と根が同一のまま存続している個体のことを指します。
※冒頭で取り上げた縄文杉も非クローン個体に該当しますが、今回新たに取り上げた3つはいずれも縄文杉より長く生きていることが分かっています。なお、今回記載した樹齢は本記事投稿時点で判明しているものです。今後の計測によって樹齢が見直される可能性もありますので、その点はご注意ください。

①グレートベイスン・ブリッスルコーンパイン
・アメリカ・カリフォルニア州のホワイトマウンテンに自生するマツの一種で、現存する最古の木とも言われます。その中でもメトシェラ(Methuselah)と呼ばれる個体は特に古く、樹齢は約4,800〜5,000年と推定されています。
・高地で乾燥し、かつ気温が低い環境に自生しているため生長が極めて遅く、樹木自体の老化や病害の進行も緩やかな点が特徴です。また木材が非常に硬く、腐朽菌や害虫に強いことも長寿の一因となっています。
②アルセ(パタゴニアヒノキ)
・南米のアンデス山脈に分布する針葉樹です。元々樹齢3,600年を超える個体が存在することは確認されていましたが、2023年には樹齢が5,400年を超える可能性があるとする研究結果が報告されました。
・寒冷で湿潤な環境に自生しており、木材には多量の樹脂が含まれています。その結果、腐朽菌や害虫にも強くなるため、グレートベイスン・ブリッスルコーンパインにも劣らない長寿を実現しています。
③ヒューオンパイン
・オーストラリア・タスマニア島の湿地帯や川沿いに自生する針葉樹です。前述した2つにはやや劣りますが、その樹齢は約2,000〜3,000年と推定されています。
・ヒューオンパインも成長が非常に遅く、木材に多量の樹脂が含まれている点が特徴です。そのため腐朽菌や害虫にも強く、タスマニアの湿潤環境下でも長期にわたって生き続けることができます。
ここまでの内容をまとめると、非クローン個体については過酷な環境下で自生しているものが多く、生長速度の遅さや木材の丈夫さが主な特徴になっています。したがって「ゆっくりと生長し、過酷な環境に耐え続けること」が長寿の秘訣だと言えそうです。
「クローン個体」として最も古い植物
続いては「クローン個体」として特に古い植物と言われるものをいくつかご紹介します。なおクローン個体とは、地上部の幹は定期的に更新されるものの、地下の根系は同一のまま存続している個体(=幹は定期的に枯れるが、根だけは生き続けている個体など)のことを指します。
①パンド(アメリカヤマナラシ)
・アメリカ・ユタ州のフィッシュレイク国有林に存在する、世界最大級のクローン植物群落です。同一の根系から数万本もの幹を伸ばしており、根系の起源は約8万年以上前まで遡ると言われています。
・1本の幹の寿命は最大130年程度と言われますが、地上の幹を交代させながら、地下の根系に関しては長きにわたって生き続けてきたと考えられます。仮に火災や伐採によって幹が失われたとしても、根系から新芽を出して再生できることが長寿の一因となっています。
②オールド・チッコ(ヨーロッパトウヒ)
・スウェーデンのフルフジェレット山に生育するヨーロッパトウヒです。こちらも根系が長く生き続けており、その起源は約9,500年前と推定されています。
・1本の幹の寿命は数十年程度と言われますが、地上の幹を交代させながら、根系だけは長く生き続けています。また寒冷で乾燥した高山環境に自生しており、腐朽菌や害虫の活動が抑制されていることも長寿に大きく寄与しています。
③キングス・ロマティア
・オーストラリアのタスマニア州南西部に自生する極めて希少な植物で、現存する個体は全て遺伝的に同一のクローン体であることが知られています。遺伝解析によると、このクローン系統は少なくとも43,600年以上前から存在していると推定されています。
・但し、キングス・ロマティアに関しては先に挙げた2つとは異なり「同一個体が存続し続けている訳ではない」という点が少し異なります。キングス・ロマティアは種子で繁殖することができず、代わりに落ちた枝が地面に根付いて新しい個体を形成するという少し変わった特徴を持ちます。そのため、同じ遺伝子が長きにわたって存続している点は変わらないのですが、個体自体は定期的に更新されています。
ここまでの内容をまとめると、クローン個体については地上部の幹(または個体)を定期的に更新しつつ、根幹となる根系(または遺伝子)だけは維持し続けている点が主な特徴になっています。したがって「変える必要のある部分は定期的に更新し、根幹部分だけは長く維持し続けること」が長寿の秘訣だと言えそうです。
「品種」として最も古い植物
最後に「品種」として最も古い植物を取り上げ、本記事を締めくくりたいと思います。
植物が陸上に進出したのは約4億7,000万年前(古生代オルドビス紀〜シルル紀)のことで、最初に登場したのはコケ植物(蘚類・苔類)や初期のシダ植物と言われています。
そのため最も古い植物はコケ類やシダ類ということになりますが…これはあくまでも植物の起源としての話であり、これらの植物が現在も存在しているかどうかについては確証がありません。そこで「現在まで生き残っている品種」に絞ると、イチョウがその代表格として挙げられます。イチョウは約2億7,000万年前(古生代ペルム紀末〜中生代初期)には既に祖先が存在しており、現在までほとんど姿を変えていないことから「生きている化石」とも言われています。

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