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【合掌造り】茅葺き屋根の「カヤ」の正体はあの植物だった!? - アタマの中は花畑
昨日は茅葺き屋根に関する記事を投稿したのですが、この記事を書いている際にもう1つ「冬の風物詩」の存在を思い出しました。この時期庭園などに出向くと、以下のような光景を見かけることがあります。
・松の木の周りに円錐のような形で紐が張られている光景
・松の木の幹に藁のようなものが巻きつけられている光景
前者は「雪吊り」、後者は「こも巻き」と呼ばれるのですが…正直なところ冬の防寒対策としては不十分な気がしています。ということは他に目的があるはずなのですが、その目的とは一体何なのでしょうか?
雪吊りの目的・効果について
雪吊りとは、雪の重みで枝が折れないよう縄などで枝を吊ることを指します。明治時代から続く伝統行事で、東北・北陸などの豪雪地帯を中心に見かけることができます。雪吊りには大きくりんご吊り、みき吊り、しぼりの3手法があります。
◎りんご吊り
・樹木の幹のすぐ近くに支柱を立て、支柱の先端から各枝へと放射状に縄を張る手法。雪吊りの手法では最もよく見かける。
・当初はりんごの木に対して行っていたことから「りんご吊り」と名付けられた。
◎みき吊り
・支柱は立てず、樹木の幹の先端から各枝へと放射状に縄を張る手法。
◎しぼり
・縄で枝をまとめて縛ることにより、雪から枝を守る手法。
こも巻きの目的・効果について
こも巻きとは、松の木の幹にこも(藁などで作られたむしろ)を巻き付けることを指します。江戸時代から続く伝統行事の一つで、晩秋〜冬にかけて庭園などで見かけることができます。通常は高さ1〜2m程度のところに腹巻きのような形でこもを巻き付けるのですが、地域によってはより広い範囲を覆うこともあります。
「こも巻き=腹巻き」だとすると防寒目的のような気がしていまいますが、本来の目的は害虫駆除です。松の木にはマツカレハと呼ばれる害虫が発生しやすく、冬の間は幼虫の姿で越冬します。マツカレハの幼虫は暖かい時期に松の葉をたらふく食べた後、寒くなると木の根元や落ち葉の下へ移動します。この際、幼虫の通り道となる幹にこもを巻き付けておくことで、幼虫達はこもの下で越冬します。そして翌春、幼虫達が活動を始める前にこもを剥がして焼却することで一網打尽にすることができます。
その一方で、こもの下で越冬するのはマツカレハの幼虫だけとは限りません。中には益虫(ここでは、松の害虫であるマツカレハを捕食する虫を指す)が紛れていることもあり、益虫ともども駆除してしまう可能性も否定できません。そのような経緯もあり、自治体や庭園によっては意図的にこも巻きを行わないこともあります。
観光目的としての側面も
雪吊り・こも巻きはともに昔から続く伝統行事ですが、その見栄えの良さから近年では観光目的としての側面も持っています。そのため、豪雪地帯でなくてもあちこちで見かけられるようになりました。とはいえ見られるのは冬の間だけですので、機会があればお近くの雪吊り・こも巻きを探してみてはいかがでしょうか。